開発経緯

2010年頃の話です。
「新規事業を作ろう!」という取り組みがありまして、私はそれに関わることになりました。

その場では、「コーディネートシステム」の「コ」の字も出てきませんでした。
ただ、社員に音声認識や雑音処理をやっている人がいまして、その人を活かしたいと思って、音声認識で何か出来ないかな?と考えておりました。

いろいろと調べているうちに、ろう者が一般の会社に勤めることはとても大変なことを知りました。
また同時に、音声認識などの技術で、何か出来るのではないかと考えるようになりました。
今の私の考えは少し違ってきていますが、当時は視野が狭く、技術で何とかしよう、何とかできるという思いが強かったと思います。

ろう者が著した書籍などを購入して、読んだりしましたが、やはり、実際に合って話を聞いてみたい、と思って、偶然にも筑波技術大学のT先生へのコネクションがあり、T先生からのご紹介で何人かのろうの方とお会いして、お話を聞くことが出来ました。
その中の一人が、群馬大学の障害学生支援室(当時)にお勤めだったTさんでした。
私は手話が出来なかった(今も挨拶程度しか出来ません…)ので、前橋駅のマクドナルドで、IPtalkというソフトを使ってお話させてもらったのを、昨日のように覚えています。

お会いしてお話させていただいた後にも、「指文字の練習アプリ(今はもう他の方が開発されていますね)」はどうだろう?とか、何度かメールで意見交換させてもらっていました。
そのやり取りの中で、コーディネートの話が出たのです!
とにかく大変なので、何とか効率化できないか?というような相談を貰いました。
それが、コーディネートシステムが生まれるキッカケになりました。
当時は、まさか群馬大学様以外にもユーザーが拡がるようになるとは、もちろん想像だにしませんでした!

こうやって、文章にして振りかえったりすると強く思うのですが、作ろうと思って作ったというよりは、何かの流れがあって、それに従って「作らせてもらった」(上手い表現が出来ませんが…)ものであるように思います。


夏の暑い日だったと思います。
私は、群馬大学の障害学生支援室(当時)を訪れていました。
顔合わせのご挨拶と、システムを具体化していく上で、具体的に、どのような業務を行っているのか、どういった機能が要求されるのかをヒアリングをするために伺いました。
支援室の皆様は、海のものとも山のものとも分からない私を、暖かく迎えてくれました。

訪問の後日、メールも頂いたりしました。
 「真っ暗なトンネルの中を手さぐりで進んでいたところに、
  一筋の光が見えた、そんな思いです。」
こんなメールを頂いてしまっては、なお更頑張らないわけにはいきません。

技術的には、Google AppsとGoogle App Engineという両方ともGoogleのクラウドシステムですが、これらを使うことにしました。
私自身は、今まで使った事がない技術だったので、書籍を買い、Webで検索し、勉強しながらのプログラム作成となりました。
私は技術系の出身なので、新しいことを勉強しながら挑戦できて、エキサイティングでした。

今思うと、作成したプロトタイプ版は稚拙なもので、完成度も高くありませんでした。
しかし、何らかの可能性を感じさせるものだったのでしょうか、支援室の皆様からは喜びの声を頂くことが出来ました。

一般のビジネスでのシステム開発では、最初にシステムの仕様を定義し、それが実現できればお終い、となるのですが、コーディネートシステムの場合は、作りながら仕様を考えて変更していくというスタイルを取っています。
最近のIT業界では、「DevOps」といって、開発(Development)と運用(Operations)を切り分けないで、共に協力しながら作っていきましょう、ということが提唱されていますが、それを先取りしてやっているのです。
しかも、4年たった今でも、使ってもらった現場からのフィードバックとして、仕様の見直しと新しい機能の追加を行っています。
こんなに開発と運用が密に連携して開発が進められているシステムは、沢山は無いだろうと自負しています。
そんなシステムだからこそ、皆さんを笑顔にしてくれるのかな、と思います。


群馬大学の障害学生支援室様との開発を2010年の夏から始めて、2011年度は上に書いたような試用と改善のサイクルを回して、ようやく実務にも耐えうるそれなりのシステムが完成してきました。

支援室のスタッフの方とは、何度もメールでやり取りを行い(主に、システムのバグでちゃんと動かない!助けて!というもので申し訳ありませんでしたm(_ _)m)、メル友みたいな感じがして、メールが来ないと少し寂しいくらいでした(言うまでも無く、それが望ましい状態なのですが)。

不思議なもので、何かに取り組んで、頑張ってある程度のところまで来ると、誰かが見ているのか、次のステージが用意され、今度はそれに向かって頑張れ、ということになるようです。
2012年の初夏のころに、愛媛大学のバリアフリー推進室様から問い合わせを頂きました。

とりあえずお話をお伺いしようと思い、飛行機で松山まで飛び、愛媛大学を訪問しました。
迎えてくださったバリアフリー推進室の皆様に、システムのデモを行い、役に立ちそうだと喜んでいただいたことを思い出します。
群馬大学の支援室の皆様と同様に、バリアフリー推進室の皆さんもとても優しく素敵な人たちで、そういう人たちと仕事が出来るというのは、とても幸せなことです。

システム面については、大きな改修が必要であることが判明しました。
「支援」と一言にいっても、行われる「支援」は大学ごとに結構異なりますし、誰に支援を依頼するかという条件、考え方についても同一ではありません。
コーディネートシステムを、いろいろな大学で使ってもらうためには、「カスタマイズが容易に出来ること」が、とても重要だという認識に至りました。
それまでのコーディネートシステムは、”群馬大学仕様”であり、それをそのままを愛媛大学で使っていただくわけにはいかなかったのです。


プログラムを大幅に改良して、いろいろな支援のスタイルに合わせることが出来るようになったのが、夏の終わりごろだったでしょうか。
愛媛大学でも、2012年の後期から、システムを導入して使っていただくようになりました。

これはいつも申し訳ないと思うのですが、私一人で時間を見つけてチョコチョコと作っている状況なので、プログラムのテストが十分に出来ないのです。
プログラムは作るよりもテストする方が大変で、マイクロソフトでは、開発費用の半分以上はテストに掛けられていると、本で読んだことがあります。
そのような開発費はもちろん無いわけで、コーディネートシステムでは、使ってもらうことがテストを兼ねていて、それで不具合が出たらすぐに修正する、という方法を取らざるを得ないのです。

少し安定して動いてきたかなと思っていた晩秋の頃、PEPNet(日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク)のシンポジウムで、システムの展示をやらないか?というお話を頂きました。
場所は愛媛大学だということで、導入していただいたバリアフリー推進室の皆様ともお会いできるし、ほかにシステムを必要としている方々にも合えるかも知れないと思って、参加させていただくことにしました。
そして、そこでまた新しい人達との出会いがありました!


愛媛大学でのシンポジウムが終わり、2012年の年末に、宮城教育大学の障がい学生支援室さまから、お問い合わせを頂きました。
シンポジウムで、システムについて知り、愛媛大学のバリアフリー推進室さまからのご紹介で、連絡を頂いたのでした。
また一つ、口コミで縁がつながりました。

もしお役に立てるなら…と思い、2013年の年明け早々に、宮城教育大学のある仙台まで、新幹線に乗って出かけていきました。
1月の仙台はとても寒かったですが、お会いした障がい学生支援室の皆様は、とても優しく素敵な方々で、来て良かった!是非、お役に立ちたい!と思いました。

デモを行なって、宮城教育大学での支援について詳しくお話を伺ってみると、支援を受けている学生さんがとても多いこと、また、愛媛大学で使っていただくために、かなりシステムを改良して、カスタマイズ性を高めたつもりだったのですが、それでもやっぱり足りないところがありました。
なかなか時間がとれず、3月までには改修は間に合いそうに無かったので、とりあえず現状のシステムを導入して、使えるところだけ使っていただいて、夏の間にシステムを再度改修して、秋学期からは本格的にお使いいただけるようにすることにしました。

宮城教育大学の皆様からも、システムを導入したことで業務が効率化され、学生さんと向き合う時間が増えた!と喜んで頂いて、私はその笑顔を見て、とても嬉しくなるのです。


2013年は、もう一つ、出会いがありました。

2013年の夏のある日のこと、一本の電話をもらいました。
電話してくださったのは、東洋大学のバリアフリー推進室の方でした。
実は、2012年末に、愛媛大学で行われたシンポジウムに出展したときに、名刺交換をさせていただいていたのでした。
それから約半年、実際のコーディネート業務がかなり大変だとのことで、コーディネートシステムのことを思い出して、連絡をくださったのです!

いつものごとく、デモと説明に出掛けていきました。
これまでは、群馬県、愛媛県、宮城県と、私の住んでいる東京からは皆、ちょっと遠くて、自分の懐具合と相談しながらお伺いしなくてはいけなかったのですが、東洋大学は都内にあって、数百円の電車賃で行ける(!)ので、とても気楽に行ける初めての大学になりました。

デモを行なったところ、好評を頂きまして、正式に導入することが比較的すぐに決まりました。
「コンピュータのことだから、きっと説明を聞いても分からないと思ったけど、実務に合わせて作ったシステムであることがよく分かった」と仰っていただけたのが嬉しかったです。
また、これまで各大学のスタイルに合わせるべく、カスタマイズには結構苦労していましたが、それほど大幅な改良をすることなく使っていただけそうだということも分かりました。
これならもう少しユーザーが増えても大丈夫かな、と少し自信が付きました。

もちろん、カスタマイズが全く不要というわけではありません。
特に、支援実績を集計する機能を実装しているのですが、必要な情報や、事務処理が楽になるフォーマットというのは、大学ごとにかなりのバリエーションがあって、それに対するカスタマイズの要望を頂くことが多いです。
とはいえ、持っている情報を集計して表示するだけなので、それほど大変なカスタマイズではありません。

2013年の秋から少しずつ導入をしていきまして、半年使っていただきました。
3月中に現場の皆様の声を反映して微調整を施し、4月からの新年度からはフル活用していただければと思っています。

…ということで、2010年から始まり、2014年に至るまでの経緯をご紹介いたしました。
私がやっていることは、障がいのある学生さんに対する直接的な支援ではありません。
それを支えている人たちが働くための環境整備です。
でも、その環境整備は、とても大切だと思っています。
しっかりした環境がないと、出せる力も出せないですからです。

このシステムを作り始めるときに、障がいのある学生さんの修学支援の現場はとても若い職場だと、群馬大学の先生に教えていただきました。
コーディネートシステムを使ってもらえば、間違いなく事務作業を減らすことができると確信しています。
学生さんと向き合うという、人でなければ出来ない仕事に取り組む時間が増やせます。
そして、巡りめぐって、それが学生さんのためになるはずです。

自分の仕事が社会の役に立っているという実感が得られること、それがコーディネートシステムを関わる中で、私にとって一番の報酬です。